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【本】池谷裕二 / 単純な脳、複雑な「私」
タイトルが示すとおり、脳内では、自然法則にしたがって、単純な物質の化学反応が起きているに過ぎないのですが、その挙動は実に複雑で、驚くべき能力を発揮していることが分かります。わずかな素子とルールだけで、無秩序から秩序へ、「オン」「オフ」の信号の集まりが、自由意志をもった生命体のような動きをする事が確認でき、崇高な気持ちにもさせられます。
しかも、「私」が認知できる範囲を超越した領域で脳は働いており、まるで「私」以外のどこかに脳というものがあって、それに操られている自分がいるような気になります。そしてさらに、その「私」の「心」は一体どこから来るのだろうか、と謎が深まる感覚がまた面白いです。
例えば意識と無意識の関係。私たちが意識している感覚がいかに当てにならないか、それに反して、無意識というものがどれ程優れた能力を持っているか、前半で具体例を挙げて説明されています。
つり橋の上で告白するとなぜ成功率が高まるのか?
何のことはない、脳の「錯誤帰属」によるものです。「錯誤帰属」とは、自分の行動の「意味」や「目的」を、脳が早とちりして勘違いな理由付けをしてしまうことです。つまり、高所でドキドキしているのを、目の前の人にときめいているのだ、と受け止めてしまうのです。良いことを知りました。是非実行しましょう!
また、同じ長さの物が違うように見えたり、止まっている物が動いている様に見える錯視(目の錯覚)も、意識のいい加減さを表します。
一方、「サブミリナル効果」にみられるような、無意識レベルへの刺激に対しては、実に正直に脳は反応することが実験により実証されています。
また、日常では同じ様に使われている「直感」と「ひらめき」ですが、脳科学的には別物で、「ひらめき」とは思いついた後に理由がハッキリいえること、「直感」とは自分でも理由は分からないけれど「何となくそう思うんだよね」というもの。そう聞くと、直感とはデタラメのように思いがちですが、「偶然」では説明のつかないレベルの結果が実験によって得られるそうです。
直感が働く時、脳科学的には、「基底核」という部位が活動しているのですが、この基底核とは、「やり方」「方法」の記憶を司る所です。特徴として、「無意識的」で「自動的」で「正確」な仕事をこなすというのが挙げられます。箸で食事をするという些細な行動でも、複雑な筋肉の協調によってなされる行為ですが、私たちが何も考えずに行うことができるのは、基底核の優れた能力によるものなのです。
これは、くり返しの訓練によって身につくもので、スポーツ選手がフォームを体に覚えさせるというのは、この基底核に習得させている、という訳です。
そう考えると、「直感」というものは訓練によって鍛えられるもので、決して軽んずべきものではないという事が知らされます。
さらに、女性が男性のウソを問い詰めている場面というのは結構見かける光景ですが(汗)、ホルモンや神経伝達物質などの男女差から、「女の勘」というのは優れた能力であることが分かっているようです。なんと恐ろしいことでしょう。
このように脳の働きと、我々の知覚を詳しく見てみると面白い関係が見えてくるのですが、もう一つの例として、「心が痛むときは脳でも本当に痛みを感じている」というのが興味深い内容でした。その「痛覚システム」は相手の痛みを理解するという「共感」の心も生みだしているそうで、辛い思いをした人ほど思いやりの心があるという、経験的に感じていることと合致しているのが面白いと思いました。
後半では、そんな複雑な私を支配する脳が、いかに単純な作りの集合体であるかが示されています。最初から最後まで、次から次へと「へぇ~」と思えるような事例が沢山出てきますので、脳科学の入門編としても、単なる読み物としても、非常に読み応えのある1冊だと思いました。
最後に、関係ないけど関係なくはないBGM。
TNT – Intuition
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